伝承
- タヌキは金の精霊であり、金は本来的に再生を意味する鉱物である。したがって、再生の精霊であることをも意味しているが、ネコと同様、死のシンボルとしての側面も持っていた。金が再生のシンボルとされるのは、不純物を排出していく過程で、金の輝きは一度死に(輝度が一時的に低下する)、次の瞬間、眩いばかりに輝きを再生すという現象があるからである。この金の死をもたらすため、金工師らは、炉に本種の死体を釣り下げたと伝えられている。しかし、この伝承は金工師に限ったもので、ネコと同じく、狸の場合も精霊的要素はほとんど伝承されなかった。タヌキの化けるという能力はキツネほどではないとされているが、これは化ける狸の多くが、古猫と同じく付喪神(つくもがみ)であるためである。ただ、一説には「狐の七化け狸の八化け」といって化ける能力はキツネよりも一枚上手とされることもある。実際伝承の中でキツネは人間の女性に化けることがほとんどだが、タヌキは人間のほかにも物や建物、妖怪、他の動物等に化けることが多い。また、キツネと勝負して勝ったタヌキの話もあり、佐渡島の団三郎狸などは自身の領地にキツネを寄せ付けなかったともされている。また、犬が天敵であり人は騙せても犬は騙せないという[2]。
- 文福茶釜
- 群馬県館林市茂林寺の有名な話。タヌキが守鶴という僧に化けて七代寺を守り、汲んでも尽きない茶を沸かしたとされている。普通、物怪(もののけ)は鉄を嫌うが、このタヌキはその鉄の茶釜に化けており、金の精霊たる所以を表している。また、金工には火が重要なエレメントとなるが、鳥山石燕は『画図百鬼夜行』において、文福というネーミングは、「文武火」のことであり、文火は緩火、武火は強火を意味するとしている。火の様子が茶釜の名前になったのも、タヌキが金工のエレメントであることを示すが故である。汲めども尽きぬとは、富、すなわち金を表す言葉である。
- ムジナ(貉)
- 茨城の炭焼き小屋に毎晩女が現れ、いたずらがひどいので殺すとムジナ(貉)であったというが、ムジナは2尾いっしょにならないと女に化けられないと伝えられる。
- ソウコタヌキ(宗固狸)
- 茨城県飯沼弘教寺に墓がある。寺の僧に化けていたが、ある日昼寝をして正体を現した。しかし、長く仕えたというのでその後も給仕をさせていたと伝えられている[3]。タヌキはよく僧侶に化ける。
- タヌキバヤシ
- 江戸では、番町七不思議のひとつで、深夜にどこからともなく太鼓の音が聞こえてくるものを「タヌキバヤシ」といった。童謡『証城寺の狸囃子』は證誠寺 (木更津市)に伝わる伝説を元に作られた。
- 負われ坂(おわれざか)
- 大阪府南河内郡。夜にある坂を通ると「おわれよか、おわれよか」という声がするので、気丈な男が「負うたろか負うたろか」と言うと、松の株太が乗りかかった。家に帰ってナタで割ろうとすると、古狸が正体を顕わして詫びたという[4]。
- 重箱婆(じゅうばこばば)
- 熊本県玉名郡、宮崎県日向市。古狸が重箱を手に持った老女に化け、「重箱婆じゃ、ご馳走はいらんかえ」と言いながら、人に石のようなものを担がせるという[5][6]。
- 風狸
- 『画図百鬼夜行』、『和漢三才図会』、『本草綱目』などには「風狸」というものが見え、「風によりて巌をかけり、木にのぼり、そのはやき事飛鳥の如し」とある。ある草を狙いすまして鳥に当て、これを餌とするともいうが、ムササビやモモンガなどの野衾(のぶすま)のことであろう。
この種の話は、各地に伝わっている。しかし、タヌキの本場は何と言っても四国で、怪異といえば、原因はたいていタヌキの仕業である。全国的には八百八匹の眷属を従えていたとされている隠神刑部等が有名。
- 赤殿中(あかでんちゅう)
- 徳島県板野郡堀江村(現・鳴門市)。夜中、タヌキが赤いでんちゅう(袖のない半纏)を着た子どもに化けて背負うことをしつこくねだる。仕方なく背負うといかにも嬉しそうな様子で、その人の肩を叩くという[7]。
- 傘差し狸(かささしたぬき)
- 徳島県三好郡池田町(現・三好市)。雨の降る夕方など、カサをさした人に化けて通行人を招く。カサを持ち合わせない人がうっかりカサに入れてもらうと、とんでもない所に連れていかれるという[8]。
- 首吊り狸(くびつりたぬき)
- 徳島県三好郡箸蔵村湯谷(現・三好市)。人を誘い出して首を吊らせるという[9]。
- 小僧狸(こぞうたぬき)
- 徳島県麻植郡学島村(現・吉野川市)。小僧に化けて夜道を行く人を通せんぼし、怒った相手が突き飛ばしたり刀で斬ったりすると、そのたびに数が倍々に増えて一晩中人を化かすという[10]。
- 坊主狸(ぼうずたぬき)
- 徳島県美馬郡半田町(現・つるぎ町)。坊主橋という橋を人が通ると、気づかぬ間に坊主頭にしてしまうという[11]。
- 白徳利(しろどっくり)
- 徳島県鳴門市撫養町小桑島字日向谷。狸が白徳利に化け、人が拾おうとしてもころころ転がって捕まえることができないという[12]。
- 兎狸(うさぎたぬき)
- 徳島県。吉野川沿いの高岡という小さな丘で、ウサギに化けてわざとゆっくりと走り、それを見つけた人は格好の獲物と思って追いかけた挙句、高岡を何度も走り回る羽目になったという[13]。
- 打綿狸(うちわただのき)
- 香川県。普段は綿のかたまりに姿を変えて路傍に転がっているが、人が拾おうとして手を伸ばすと動き出し、天に上ってしまう[14]。
日本手話の「たぬき」。腹をたたく動作が手話化した。いつの頃からか「タヌキの腹鼓(はらつづみ)」が伝承され,それが手話の中に取り入れられていった。
![]() タヌキ:こぶしで腹をたたく動作から。 |
